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元日銀マンが語る中央銀行の内幕(3) 「日銀インサイダー」著者・本吉正雄氏

 本吉氏のこれまでの話から見えてきたように、日本銀行が民間銀行に及ぼす影響力は一般の知るところより遥かに強大。だがその権力にブレーキを掛けることができる者は今や存在しない。国民は日銀幹部を選挙で信任・不信任することはできず、さらに1998年に大蔵省の管轄から独立して以降、日本政府までもが日銀総裁の解任権を失ったからだ―――
 
 一般に中央銀行と行政府の一体化はリスクが大きいと言われている。この体制では、行政府が国民からの支持低下を恐れ増税の代わりに安易に貨幣を増刷、結果インフレを引き起こしてしまうためだ。その意味で、金融政策を行政から独立させる意義は認める本吉氏だが、しかしその独立性は、あくまで日銀が中央銀行として国民から信任される限りにおいて保証されるもの、と警告する。
 「現在使われている1万円札は、昔にように1万円分の金貨と交換できるものではなく単なる原価31円の紙に過ぎない。要するに日本銀行が『1万円の価値がある』というお墨付き(=信用)を与えているから1万円として流通しているだけのことだ」
 普段意識されることは少ないが、その国の貨幣制度は「中央銀行が信用できる」という前提なしには成立しない。日本の中央銀行である日銀が信用に値しないものと認知されれば、日本銀行が「1万円」と印刷する日本銀行券を持って買い物に出かけても、店主に7、8千円の価値しかないと拒否されてしまい(=インフレ)、それに対して文句も言えないからだ。
 「国民も行政府も介入できない中央銀行を、中央銀行として本当に信用に足るものにするには、政策の透明性と情報公開、さらにその政策が本当に正しいかどうかを監視する機関の存在が絶対に必要」というのが本吉氏の主張。だが、現状はそれとは程遠い状態にある。本来、日銀を監視すべき立場は同じ第4の権力であるマスコミだが、日銀が行内に「金融記者クラブ」を置き、そこで大手マスコミを丸抱えしているからだ。 
 これによって日銀は自分たちに都合のいい情報だけを流すことができ、またマスコミの側も、日銀の機嫌を損ねない限り簡単に情報を入手し続けられる。こうした日銀とマスコミの癒着は、98年の独立以前から連綿と維持されてきた。
 その結果、日銀が公開する情報の範囲は今も極めて狭く、国民が知ることの出来る日銀内議事録も、セレモニー的会合に過ぎない「政策委員会金融政策決定会合」の「議事要旨」に限られている。もっとも重要なのは政策の決定に至る過程だが、それを記した「丸卓」と呼ばれる会議議事録は、一切非公開なのだ。
 こうした日銀の政策決定にまつわる不透明性について、本吉氏は長年行政府からの独立を志向し続けた結果もたらされた、他の官庁とも趣の異なる独特な体質が根底にあるという。
 「日本銀行では、世間から隔絶すればするほど格が上がったと考えるような風潮がある。世間一般のやり方というものは、彼らセントラルバンカーにとっては蔑視の対象でしかないのです」

「日銀インサイダー」



(2006-10-23)

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