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再開発進む渋谷片隅にて

再開発進む渋谷片隅にて

 ここに来て再開発も加速する渋谷と原宿の狭間、明治通りのややはずれの場所で、戦前から店を構えていたパン屋兼駄菓子屋が、10月末日ひっそりと幕を閉じた。
 10月31日午後7時30分。「山田米店」に降ろされたシャッターは、同時に16年にわたる山崎パン販売店としての歴史にも終わりを告げるものとなった。当初精米店だった終戦直後から数えると半世紀を超えるこの場所での営業。だが間もなくここも改装し、メンズもののブティックにテナントとして貸し出すことになる。
 昔から一番の得意客だったのが、近くにある女子高の生徒や新進ブランドの若手スタッフ。毎夕、賞味期限の切れ掛けたパンを無料でサービスしているうち、自然に親しくなるのだと店主夫人のYさんは語る。
 「『クラスで意地悪をされた』とか、親や先生にあまり言いたがらない悩みもずいぶん聞かせてもらいました」と笑うYさん。卒業後見違えるほどに化粧が巧くなった彼女らが、渋谷に来た折「おばちゃん、私のこと覚えてる?」と訪ねてくることも度々だったとのこと。当初「毎日忙しいばかりで思い出といえるのはあまり」と語っていたYさんも、いざ彼女たちの話題になると止まらない。
 さらに聞いたところでは、彼女らが教えてくれる試験日程や長期休業の情報はパンの入荷調整には必須だったということで、女子高生の側も、店の経営にはキチンと貢献していたようだ。
 ささやかながら大過ない状況が一転したのは3年ほど前。この付近にもコンビニが急増した時期だという。マスクからリップクリームまで全てが揃うとあっては個人商店に太刀打ちのしようもなく、近年の売上はピーク時の4分の1にまでダウンしていた。
 実はそれ以前から、「ここにテナントを借りたい」と希望するブティック、企業は引きも切らず来訪。長年にわたりそれらを断り続けてきた山田米店だが、ここに来てパート一人分の人件費確保も難しくなるとあっては、もはや賃貸を決めるほかなかったという。
 最終日は開店と同時に、「全品半額セール」の張り紙を掲示。馴染みの女子高生徒や店スタッフらがねぎらいの挨拶をしようと駆け付け、夕方には全ての在庫が空になっていたが、一方で品物が掃けた棚には、贈り物の花束やぬいぐるみの数々が置かれていた。
 「今度ここを貸すのもよく知ってる人たちだし」と、残念がるそぶり一つ見せず語ったのは店主の息子さん(写真)。だが小銭が足りないときに「出世払い」でパンを売ってくれる店を、本人たち以上に惜しむ人は、渋谷にも決して少なくなかったようだ。


(2006-11-01)

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