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日本伝統の精神文化を忘れるな(月刊原宿新聞社説)
「経済合理性」と「国民の安全」。20数年前、炭鉱の取材をしているとき、「エネルギー安全保障」という観点で論議があった。
「鉄は国家なり」を支えた国内石炭産業。当時は国内炭2000万トン体制を堅持するかどうか、国をあげての重要な論争があった。輸入石炭は、露天掘りの安い豪州産。地下、数千メートルから炭鉱夫が命がけで採掘する国内の石炭は当然ながら割高だ。ただ、国をささえるエネルギーのすべてを輸入に頼るのは、国家の安全保障上いかがなものか、喧々諤々の論議であった。結果は、原油などの代替エネルギーにとってかわられ国内最大の三池炭鉱(当時500万トン産出)の閉山とともに日本の石炭産業は江戸時代にまで遡る歴史に幕を閉じた。ただ、この時代、日本のエネルギーをどうするか。この国のためにはどうあるべきか。政財界含め真剣に意見を戦わせたのは確かだ。
日本の食糧自給率は現在、約40%。先進国をみてみると、オーストラリアが230%と圧倒的。続いてフランス130%。カナダ120%。アメリカ119%。ドイツ91%。イギリス74%。先進国とよばれる国々のなかで日本の自給率は圧倒的に低い。60年代は、日本78%、ドイツ67%、イギリス42%(農林水産省「食料需給表」)ということを考えれば、欧米の国々は国家戦略として意識的に食糧の自給率をあげる一方、日本は食糧安全保障としての政策が何も実施されてこなかったに等しい。国民の健康・安全に直接に結びつく「食」。食糧安全保障などと大げさにいわなくても、日本の「食」の安全はこんな状態で守られていくのだろうか。
仕事柄、海外に行くことが多いが、日本ほど格差がない国は少ないのではないか。ワシントンDCのホワイトハウスから車で20分ほどはしれば、サウス地区は荒れたエリアだ。欧米、アラブ、アジア、アフリカの国々で頂点の人たちと普通の人たちとの賃金格差はそれこそ天文学的。日本は各国と比較してもこうした極端な差違はない。「人」「もの」「金」。成長の3種の神器は揃っている。個人金融資産1500兆円が眠っているという国は、世界でも異例で、それは「武器」だ。
90年代、あるいは最近の規制緩和以降、日本がなくしたものはなんだろうか。金でなんでも買えるという風潮が、日本人の伝統的な精神文化の退廃を呼んだひとつの原因ではないか。「誇り」「正義」「恥」などの言葉を耳にしなくなって久しい。米国司法省は、その名称にジャスティス(正義)という言葉を使っている。正確に訳すならば、米国正義省。言葉遊びではなく言葉には魂が潜んでいる。たとえに使うのだが、「儲かる」という漢字は左右をわけると、「信」「者」となる。真剣に信じるもの(者、物)がすなわち儲かるという意味ではないだろうか。
マスコミをにぎわす浮ついた風潮を一掃、この国のありよう。あるいは自分たちの仕事、生活。生き方を見つめなおし、何が正しくて誇りがもてるのか。日本人としての「骨太」な大事なものを取り戻せば、その復活はそう遠いものではあるまい。規制緩和で欧米の土俵で戦う必然性がでてきたが、日本では日本のルールがあるのも確か。合法であれば、なんでもありという考えが倫理の低下を招く。誇り高き日本人の精神文化を本当に大切にすれば、最近、紙面をにぎわす官僚の汚職、食品の偽装表示事件など「恥」ずかしい問題が頻発することもあるまい。 (月間原宿新聞24号社説)
(2007-12-30)
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