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シリーズ「食」 第三回 私達は何を食べているのか(4)

シリーズ「食」 第三回 私達は何を食べているのか(4)

肥料のはじまり

 ところで日本人が、農耕において肥料を使い始めたのはいつ頃からのことだろうか。
 これには諸説あるが、現在最も有力とされているのは鎌倉時代。武士が貴族に代わり、政治の実権を握り始めた時期だといわれる。
というのも、当時は武士といっても、その多くは半農半兵。御家人としての職務を果たすには、農耕に充てる期間をできる限り縮め、少しでも短期間のうちに収穫を終える必要があった。
 またこの時期、「石高」という言葉に象徴されるように、領地から挙がる収穫の多寡は、武士としての権勢に直結するものでもあった。
 これらのことから、この時代より初めて、「より早く」「より多く」を担保してくれる、効率性の高い農法の需要が生まれた。そしてその帰結として、いつの間にか作物の成長を早めるべく田畑に糞尿を撒く農法が行われるようになり、やがて広く伝播した、そのように考えられている。
 河名氏もまた鎌倉時代を、日本の農業に本格的な経済合理性が導入されるようになった転換期と見ている。だがそれは、「言い換えれば、精神文明から、物質文明への転換点」でもあるという。

枯れる野菜

 それにしても、自然栽培に取り組む生産農家は、労力の面で大変すぎるということはないのだろうか。インタビューの終わり、その点が気になって訊ねた。
「もちろん、決して簡単なことではありません。永年肥料を使い続けた農地を元のバランスの取れた土壌に戻すには、そこに自然の作物を植え、作物に窒素を吸い出してもらうしかない。これにより少しずつきれいにしていくのですが、その間徐々に収穫はできるにしても、完全な状態にするには10年は掛かってしまう。
 だから今約300世帯の農家と提携していますが、そのうち無肥料・無農薬に徹しきれているのは、現状三分の一というところです」。
「でも、自然栽培においていちばん難しいのは、おそらくは自分の取り組む農法を信じ切ること。なにしろ、『肥料を使わずに、農業ができるはずなんてない』と、未だ大半の農家が思い込んでしまっている。そうした中で生産者に固定観念を取り払わせ、信じた道を突き進んでもらうのは、実際、なかなか難しいことです」。
 河名氏には幼い頃より、「野生の植物は腐らないのに、野菜はなぜ腐るのだろう?」という疑問があったそうだ。野生の植物は最期に「枯れる」が、店で買う野菜は「腐る」。同じ植物でありながら、この差は一体、何によって生じるのだろう―――。その問いから、現在までの探求が始まったという。
 ナチュラル・ハーモニーの事務所で、何年も前に収穫し、そのまま置き晒しにした自然野菜のキュウリを見せてもらった。それは腐敗することなく、カラカラに乾燥していた。まるで地に根を張る野草が、自然のまま枯れ果てたように。
河名氏は言う。
「答えは誰かに教えてもらうのではなく、自分で考えることが大事。その姿勢が無いと、テレビの健康番組の情報を疑うことなく飛び付き、取り返しの付かない事態を招く、ということにもなってしまう。当然私の言うことも、全てを鵜呑みにするのはやめて欲しい。でももちろん私達自身は、自分のやっていることが正しいと確信していますけどね(笑)」。

(第一部終了。次回より第二回を掲載)(2008-08-15)

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