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「国家の再生」と「教育」 (月刊原宿新聞8月号社説)
NHKスペシャルの「東京大空襲」という映像を観た。昭和20年3月、数百機のB二九が30数万発の焼夷弾を下町で居住者の多い、いまの墨田、台東、葛飾区などを中心に絨毯爆撃。火の海のなかで死者10数万を出すという凄惨な内容であった。その後、東京への空襲は続き、「代々木の杜」の明治神宮は、4月の大規模爆撃で主要な建物が消失。東京は文字通り焦土と化した。昭和20年8月のヒロシマ、長崎への原爆投下から63年。日本はその後、奇跡的な経済成長を遂げた。今の華やかな表参道などからは想像することさえ難しいが、風化させてはならない事実だ。
戦後日本がめざましい発展を遂げたその原動力はいったい何だったのか。それは、衣食住にさえ事欠いた当時の状況で、「国家」「企業」「国民」が一体となり、国家の「再生」「浮揚」に取り組んだことだ。「戦時最大生産体制」。戦時中、工場を最大限稼動させる仕組みなのだが、戦後も導入、生産体制の最大化をめざした。また、国は傾斜生産方式を取り入れ、強化する産業を特定し、予算を重点的に配分した。当時は「鉄」と「石炭」産業が中心だった。いまの企業経営でいう「選択」と「集中」。限られた資源、予算のなかで最大の効果をあげるためには、当然のことだった。
さらに、昭和40年代の高度成長を支えたものはなにか。その理由のひとつに、日本の教育体制があげられるのではないか。東大を中心とした国立大学(おもに官僚の養成)、私立大学(民間企業人)、高等専門学校(中間技術者の養成)などで教育のヒエラルキーを体系化するとともに、中学までを義務教育化、基礎知識の習得を徹底し、労働力の底上げをはかった。「読み」「書き」「そろばん」。いまの企業でいえば、読解力、企画書の作成、パソコンの習得か。
こうした国家的な「産業」、「教育」の重点強化の結果、日本はめざましい高度成長を遂げた。それは、工業製品の大量生産、大量消費と経済成長を前提とした社会は、学歴社会が有効に機能するというシステムの証左でもあった。本来の学歴(学位)社会は、米国でいう大学卒、大学院卒、PHD,DRと学位によって給料体系も違う社会。日本の制度は、医者など一部の専門職を除き、大学選別社会で、本来の学位社会ではなかったが、当時の状況下では極めて合理的な制度であったかもしれない。
ただ、高度経済成長、バブルなどを経て日本経済も大きく変化。インターネットなどの普及とともに、大量生産の工業化社会から情報やサービスをうる産業へと大きくシフトしてきた。こうした経済の変化に教育制度が、追いついていない。詰め込みの受験勉強などによる大学選別方式は、もはや時代から取り残されている観がある。いま国際的に求められているのは、人材のプロフェショナル化ではなかろうか。
こうした疑問に対し大学は職業訓練校ではない。もっとアカデミックなものだという声があるのも確かだ。ただ、20数年前、米国のテレビでノーベル賞を受賞した利根川氏のインタビューが象徴的だった。彼は日本の国立大学から教職を投げ捨て単身渡米。MIT(マサチューセッツ工科大学)に自分を売り込み、採用され、同校の教授の立場で受賞した。映像で授賞式をみたが、奥さんは着物姿。可能であれば、日本に戻り研究したいと言っていた。アカデミックな人材はより自由な環境を求めて国際的に流動する時代。それは事実上の頭脳の流出。いまのプロ野球をみても優秀な人材が海外で大いに活躍している。
ならば、どうしたらいいのか。それは、国が戦後とってきた施策を実施することではなかろうか。
「産業」「教育」で重点項目を設定。遂行すること。経済大国となったいまの予算は、戦後のそれとは比べ物にならない。スーパーハイウェイ構想で米国がIT産業を強化、米国経済建直しに貢献したのは、周知の事実だ。まんべんなくすべてではなく政治、行政が自信をもって「選択」と「集中」を実施、仕組みと環境を整備することだ。
ワイドショーでは霞ヶ関の役人が「待合タクシー」などで経費を無駄遣い、バッシングを受けていた。日曜など政治のTV討論をみると、政治家は、わが党はどうだという主張ばかり。国会議員は、特別公務員ではないのか。それはどの党であろうと、国のために奉仕するのが最優先事項。それが、党利党略の論議ばかりでは、本末転倒もいいところだ。戦後の役人、政治家は、私利私欲よりも国家を考える誇りある人たちであった。そこには国家を指導するのは自分たちなのだという強い自負心と「大義」があった。教育はこの国の将来を担う根幹。「国家の再生」と「教育」は車の両輪のようなものだ。子どもたちとこの国の将来のことを真剣に考えていただきたい。
(2008-08-15)
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