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高さ60メートルの高層住宅　原宿団地建替え計画

　キラー通りの通称で親しまれる外苑西通り沿いに高さ約六〇メートルの高層住宅を建設する原宿住宅団地の建替え計画は、周辺住民二一五人の意見書を集めるなど地域住民との間で軋轢をよんでいる。この通りは、渋谷区が決めた絶対高さ制限で四〇メートルが上限。それなのになぜ六〇メートルの高層マンションの建設が可能なのか。地域住民の声を聞くとともに、争点は何か。建て替え計画の経緯を追ってみた。
　昨年八月、同地域の住民宅に原宿住宅団地管理組合（坪郷佳英子理事長）から住民説明会の案内が届けられた。説明会は、同月二十九、三十日、日本青年館ホテルで開かれ、計画の全容が説明された。
　名称は、（仮称）原宿住宅マンション建替事業。住所は、神宮前三丁目三七番。敷地面積五、一七六平方メートル。現在五階建て六棟の原宿団地（百十二世帯、入居者約五十世帯）すべてを立て壊し、地上十九階、地下二階、同十階建ての二棟。延べ床面積二九、六一〇平方メートル、高さ約六〇メートルの高層マンション（二百十五世帯）を建設する計画だ。着工は、今年十月、二十四年七月三十一日に竣工予定。
　こうした高層住宅の建設計画が可能となったのは、建築基準法上の総合設計という特例（建築物の高さの最高限度に対する特例）措置を計画に盛り込んだため。この特例は、一定割合の公開空地を有することで高さ制限や容積率の緩和を最大で一・五倍受けられるというもの。延べ床面積が一〇、〇〇〇平方メートル以上が東京都、それ以下は渋谷区が許認可権をもつ特定行政庁となっている。
　公開空地というのは、一般の人たちに公開する空き地や公園などを整備、民間の建物といえども住宅の住人だけでなくほかの地域住民の住環境、あるいは地域に貢献するのであれば、特例として規制を緩和、許可しようというものだ。
　今回の計画では容積対象面積一八、二六七平方メートルに対し一、九九〇平方メートルの公開空地を設定、総合設計特例措置で東京都から昨年十月、開発許可を受けた。だが、その公開空地の内容をみてみると、隣接する妙圓寺とはブロック塀で完全に遮断されており、メインの西通りから神宮前四丁目などの住宅街へ通り抜けがまったくできない状態。なぜならば、妙圓寺と原宿団地の隣接部分は墓地なのだ。公共性、あるいは地域への環境改善などの有無が争点になろうが、通り抜けもできない住宅の敷地内（私有地）にほかの一般の人たちが果たしては入れるものなのか。入れないとするのならば、それは公共性があるといえるのか。
　渋谷区は昨年十二月、区内の住環境を守ろうと建築物の高さの最高限度を定めた高度地区の指定を施行した。原宿・表参道地区ではメイン通りの表参道で平成十四年四月、景観を守るため地域住民自らが率先し三〇メートルに高さを制限、渋谷区が地区条例を制定した。この以前には地区住民らで文教地域づくり、温泉旅館の追放など環境の整備に取り組んできた歴史的経緯がある街がこの原宿・表参道地区だ。
繰り返しになるが、渋谷区が定めた高さ制限では、外苑西通りの高さは四〇メートルが上限。近隣で現在最も高いビルが約三三メートル。こうしたなか、その約二倍にあたる高さ六〇メートルの突出した高層マンションが建設されるのは街並みからみても異様な光景だ。
反対派の住民らは「外苑西通りの環境を考える会」（小池成治会長）を結成、地域の景観を損なうとして東京都建築審査会に不服申し立ての審査請求をした。同会によれば、「総合設計などの特例を使わずに通常に立替えしても現状の容積の約四倍もの住宅の建設が可能。適用すれば、約五倍」になるそうだ。建物還元率は二〇〇％。民間企業が収益を求めるのはある意味当然のこと。ただ、渋谷区全体の街並みなどの意向を無視、通りから突出した住宅建設で果たして地域環境を改善したなどといえるのか。
同会の本間大智事務局長は「築五十一年を経過、老朽化した原宿団地の建替えは是非とも必要。遅かったぐらい。私たちは建設をやめて欲しいなどとはいっていない。ただ、区の制限に従った高さ四〇メートルの建物で十二、三階建ての住宅で住民は十分ペイ、それで十分ではないのか。高さ、日照の問題など含め地域のことも考えてもらいたい」としている。
　これに対し原宿団地建替準備室は基本的な事実関係は確認したものの、本紙の取材に関しては坪郷理事長とともに「微妙な時期なので、応じられない」と回答した。公共性のあることを利用、特例措置を適用し、規制緩和をうけた事業であるならば、その事業は公益性を有する色あいが強いのではないか。堂々と取材に応じられない事業で果たして公共性を主張できるのか、はなはだ疑問だ。
　国土交通省市街地建築課によれば、建築基準法は特定行政庁の許認可業務。同法は、国民の安全を考慮、①建物の構造上の問題（安全性）②地域環境（建築物が環境に悪影響を与えないかどうか）の観点から規制されている。特例の総合設計は、「市街地の環境の整備･改善に資すると認めたもの」となっている。同課によれば、「法はあくまで最低の基準を設定したもの。抵触しなければ、正しいということにはならない」としている。米国などの外圧により規制緩和を導入した日本は、ライブドア事件をもちだすまでもなく自由競争の促進という本質を棚にあげ、法に抵触しなければやり得という風潮が蔓延、モラルハザートを引き起こした。民間企業の事業とはいえ、住民と環境に配慮するのは、当然のことではないのか。
（2009-06-24）

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