特集/コラム
三月のパリの街並み
三月のまるで初夏のような陽気に包まれたパリの街並みには、日曜とあって、パリジャンと観光客がことごとくくりだしている。今日はパリ発祥の地であるシテ島近辺をしばし散策する機会に恵まれた。
シャトレの地下鉄の駅を出てシテ島を通ってカルチェラタンへ渡りセーヌ河左岸を歩くコース。途中、ノートルダム寺院を橋の上から眺めたり、カフェで一休みしたり。午後には、広場でアコーデオンのおじさんの奏でる音楽に、誘われてカップル達がダンスを踊り始めたり。映画で第二次世界大戦中占領軍から解放されて踊っている、そんな一シーンをみているようで、タイムカプセルに乗って、数十年前の古き良き時代にひたっているようだ。
そんなひと時から、ふっと我にかえらせたのが、カフェで何気なくテーブルの上に置かれたレシートに記載されているTVA(付加価値税)、いわゆる消費税だ。久しぶりのパリ、そういえば記憶では昼のサンドイッチのセットメニューが以前は5.5ユーロくらいだったのに、6.5ユーロになっていて、「値上がりしている!」と思ったのも、不思議ではなかった。物事を購入するときおおよそ、お店では食料品などが5.5%、贅沢品と思しきものが19.6%だったのが、5.5%の品目が部分的に値上がりして7%になったのは確か昨年初旬。今年はそれが10%になっていて、以前は19.6%だったものが、20%になっていた。街の皆はこの変化を大騒ぎすることなく、平然と受け入れているように見える。4月から3%値上がりするのに随分と時間がかかった日本の国からやってきた筆者には、興味津々。いろいろなレシートをよく見てみると、野菜など生活に密着している食料品などは5.5%のままで、アルコール類や、化粧品などには20%がかけてあることが分かった。カフェで頼んだ軽食やエスプレッソには10%がかけてあった。
それでも街の人々は、春の陽気にハッピーそうに出回っているので、退職して数年になる知人に会った時たずねてみた。確かに昨年大統領が消費税アップに言及した時、街ではブーイングの声がかなり聞かれたが、結局次世代に期待もできないし、しょうがない(彼女は日本語を長く習っていて、習ったばかりの「やむを得ない」と表現していたのには恐れ入った。)と言っていた。ときおり、フランスの人は、あきらめが良いなあと思うが、そういった瞬間のひとつだ。交通機関のストでも、結構仕方ないと文句は言っても寛容に適応しているように見える。あまり、追い詰めないようなところが日本の傾向と違うように思える。
到着して数日は快晴の青空に恵まれていたパリも、昨日から霞かかったように近くからでもエッフェル塔がハッキリとは見えなくなった。春霞なんだろうと、日本でのマスク生活の緊張感から解放され呑気にかまえていた私に活が入ったのは、コンビニでのこと。ラジオで交通情報が流れていて、何と大気汚染がひどいので、特にバイクに乗っている人は気をつけてと、注意情報が流れていた。テレビのニュース番組をつけてみると、なんとPM系統の説明があっていて、工業が盛んだった40年前よりは良いけれどなどと、追い討ちをかけるように談義しているではないか。
観光都市ナンバーワンを誇る憧れの地パリも、大気汚染や消費税といった庶民の生活に深刻な影を落とす問題からは逃れられないのであり、もはやこの世にパーフェクトな楽園は存在しないということなのだろう。ただ、なんとなくもやもやっとしてハッキリしないパリの街並みもスクリーンのかかったセピア調としてみれば、それなりに風情があることもお伝えしておこう。(nh)